雄 勝 硯 復 興 プ ロ ジ ェ ク ト


かつては日本製の硯の90%を生産していたといわれる宮城県石巻市雄勝の硯産業は、昭和の後半から産業が衰退しはじめ、東日本大震災で壊滅的な打撃を受けました。

そして書道文化自体も作法が簡易化され、その本来の姿、意味性が忘れられようとしています。

雄勝硯の再生をきっかけとし、理想の文房具や新しい書道文化を創造していくプロジェクトです。

 


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◼︎ヨーロッパツアーを終えて 2015/2/26 

初の海外仕事となる、2週間のヨーロッパツアーを終えた。今回行った場所はパリ・ストックホルム・ロンドン。それぞれ個性的な街で、出会う人も濃くて、四六時中、映画の中から抜け出せないような感覚で過ごした。あの2週間は、確実に私の24年間の人生の中で最も濃厚な1日1日の連なりだったし、日本に帰って来てからのモノ・コトの見え方をまるっきり変えられたと感じてる。


初日はパリ。前日の夜から朝、京都METROにてYOTTUさんのイベント”GIFT”で書いてて、昼前の新幹線で東京に戻り、そのまま羽田から飛行機に乗った。興奮しすぎて脳細胞が暴れまくってるのを感じてた。なんといってもヨーロッパ自体が初めて。海外も、書道の勉強で中国と台湾に少し行った経験しかない。英語話そうとすると初級の中国語が出る。そんな状態でのパリ。脳細胞よ落ち着け、寝たまえ、と思いながら1人、パリに着いたのは朝6時。この時点で何日間起きてるかわからなかったけど、空港からホテルまで、わけもわからずタクシー乗車。1時間半ほど乗っていた。お金も両替面倒だったから全部カード払い(帰国後、莫大な請求に驚くことになる)。ホテルに到着後、今後の流れを確認し、移動。移動中に見える街並み全てに興奮。私は3日目からの入りだったから、ツアーメンバーに前日までの雰囲気を教えてもらって、これから始まる海外初仕事をいっぱい想像した。その日の会場は”LIBRARY OF ARTS”という、世界中のスタイリッシュな本を集めたお店。日本でいう中目黒のような街にあった。

タクシーの中から見たノートルダム大聖堂
タクシーの中から見たノートルダム大聖堂
LIBRARY OF ARTS
LIBRARY OF ARTS

雄勝硯と和束茶の展示。岡島さん(今回の旅の9割を共に過ごさせていただいた、とても優しくハイセンスな女性)がお茶を入れてお客さんに振舞いつつ、私が雄勝硯で墨をすり、書道の実演。というシンプルな演出。

お茶の準備をする岡島さん
お茶の準備をする岡島さん
和束茶を楽しむB BOY
和束茶を楽しむB BOY
新しいデザインの雄勝硯で墨をするパリジェンヌ
新しいデザインの雄勝硯で墨をするパリジェンヌ
LIBRARY OF ARTS
LIBRARY OF ARTS

夜も美味しいご飯をいただきフカフカな布団で爆睡し、恵まれすぎな1日目を終えた。

そして、翌日も同じ場所。書を通して日本国内をたくさん廻った経験が生かされ、2日目にはだいぶ慣れた。この日から写真の表情も生き生きしている。

調子が上がってきた様子
調子が上がってきた様子
展示風景
展示風景
パリの街並み
パリの街並み
LIBRARY OF ARTS外観
LIBRARY OF ARTS外観

3日目は、朝からストックホルムへ。パリは朝8時でも真っ暗。8時半頃に朝日を拝んだ。

タクシーの中からパリの朝日
タクシーの中からパリの朝日
ストックホルム着陸寸前の街並み
ストックホルム着陸寸前の街並み

空港からホテルに向かう途中、ストックホルムの街並みに完全に一目惚れした。

ストックホルムの街並み
ストックホルムの街並み
外国って感じ
外国って感じ

色合いの綺麗さ…。建物が重厚なんだけど可愛くて、街を歩く人々はどこか、パリと比べるとゆったりしていた。

この日の夜は、翌日の展示でお世話になる方が開催している、ヨーロッパの家具の祭典”WE LIVE HERE”の様子を見に行った。

WE LIVE HERE開催中
WE LIVE HERE開催中
WE LIVE HERE盛り上がってる
WE LIVE HERE盛り上がってる

ポートランドからツアークルーの仲間が来ており、合流。とても気さくで、優しい英語で話しかけてくれたのが本当に有り難かった。みんなでご飯を食べ、ホテルで就寝。

4日目、この日の展示から自分のリズムが作れた。英語は中学生レベルだけど、コミュニケーションは得意だから、自分の書をプレゼントする流れを組み込んでみた。まず、相手の名前を聞き、漢字に置き換え、書いて渡す。これを開催中の3時間ひたすら実践した。英語力は勉強してないから横ばいだけど、会話力はグンと伸びた時間だった。

和束茶、準備万端
和束茶、準備万端
Linさんへ
Linさんへ
「DJ書道家」と呼ばれた
「DJ書道家」と呼ばれた
パフォーマンス
パフォーマンス

また、私はいつも音楽を聴き、立ったままリズムをとりながら墨をすって書くから、その姿を「DJみたい!」と喜んでいただけた。確かに、レコードは黒い円盤・硯は黒い石盤。このコンセプトで今度、何かやりたい。

この日は疲れ果て、ホテルに帰った瞬間、何も食べずに爆睡した。


5日目。この日はストックホルムにある東アジア美術館で展示。300人の招待制パーティだった。

緊張する?と色んな人に聞かれたが、ワクワクしかなかったし、むしろもっと多くの人の前で書きたかった。感性豊かで尊敬してるツアーメンバー、伝統と革新の融合した雄勝硯、美味しい和束茶、各地で出会う、優しい英語で話してくれる方々、とてもイケてる空間、そして、私の字を見て喜んでくれる多くの方々。恵まれすぎている環境が、田舎出身の書道小娘a.k.a.自分に自信をつけていた。

和束茶カウンター
和束茶カウンター
3階から見た様子
3階から見た様子

この日は、パフォーマンスのコツを掴んだ。「今からやります!」な空気感の中でやるのはちょっと違って、「自分が書きたい時、その周りにいた人がたまたま見てた」な状態が自分の中ではベストだけど、それだとなかなか「え!?いつ書いたの」や、自分自身も「もっとたくさんの人に見てもらいたかったな…」状態になるから、まずは紙を広げて空書きを何度もすることにした。それにより「今から何か始まる感」が演出できると同時に「自身の心を落ち着かす」ことができる。よって、多くの観衆の中で自分を保ったまま書くということを身につけられた。日に日に書くことが楽しいって気持ちの自己ベストを更新していた。

夜は大きなお肉を食べて、とてもハッピーに寝た。


ストックホルム最終日、6日目は”KIKI”さんにて展示。和やかで爽やかな日本人夫婦が経営する、日本の繊細なものをたくさん取り扱うお店。今はちょっとお休み中だけれど、特別に開けていただき開催させていただけた。ストックホルムでの青空が本当に綺麗で毎日感動していたら、この青空は2ヶ月ぶりで本当に珍しい、ということを聞き、天候にも恵まれてるんだなぁ…と、しみじみと空を眺めた。

珍しい、ストックホルムの青空
珍しい、ストックホルムの青空
KIKI外観
KIKI外観

KIKIで書いていると、やたら「合気道をやっている」というストックホルムの方々に出会った。日本好きな方々が集まる空間だからか、ストックホルムで合気道ブームが来ているのかは聞き忘れたけど、少しだけでも日本語を喋ってくれることがとっても嬉しかった。写真の女の子は、「いつか東京に行きたい」と目を輝かせながら話してくれた。日本の文化がとにかく好きなようで、弟子になりたいとまで言ってくれた。

お茶を振る舞う岡島さん
お茶を振る舞う岡島さん
新しい形の硯と伝統的な形の硯を比較
新しい形の硯と伝統的な形の硯を比較
硯の説明を助けてくださったKIKI夫人
硯の説明を助けてくださったKIKI夫人
友達できた
友達できた

夜は、”WE LIVE HERE”の仕掛け人の方のホームパーティに招いていただいた。部屋にはたくさんのアートや本があり、夢のような家だった。日本人にはホームパーティを開く文化がないってのも、アートをそんなに買わない理由のひとつに挙げられるんだろなって思った。


7日目はロンドンへ移動。スウェーデンからロンドンまでの飛行機は、東京ー京都の新幹線より安いらしい。寝て起きたらロンドンにいた。パリ・ストックホルムとまた違う街並みで、かなりの勢いを感じた。渋谷や新宿、アメ村に似た勢いなんだけど、やっぱりヨーロッパならではの古い街並みがしっかり残ってて、そんな中にたっくさん描かれてるストリートアートや、カフェやバーでかかる新しくてかっこいい音楽。街を歩くギラついた若者。田舎くさい要素がまったくなかった。カルチャーの発信地の尖りを感じた。

ロンドンの信号
ロンドンの信号
ロンドンの街並み
ロンドンの街並み
ロンドンのワンコ
ロンドンのワンコ
珍しい、ロンドンの青空
珍しい、ロンドンの青空

8日目、ロンドンからオクスフォードまでバス移動3時間。世界中のクラフト小物を取り扱う、”Object of Use”さんにて展示。ゆったりとした素敵な夫婦が経営されていた。

オクスフォードへ。雄大な自然を感じた
オクスフォードへ。雄大な自然を感じた
バス
バス

この日から、またひと工夫加えた。今までの「あなたの名前を漢字で書きます」の前に、「雄勝硯で墨をすってみない?」と一声かけてみた。この時はもう英語話すとかじゃなくて、通じ合えてた気がしてた。「あなたが作った墨で、今から書くね!」と言って書いてを繰り返した。本当にわからない時はツアーメンバーに助けてもらった。悔しかったけど、分かり合えないことの方がもっと悔しかったし、本当に英語の勉強が必要なんだということにも気づけた。五感を駆使してある程度をクリアしてたけど、食い込んだ質問をされ時、英語を通しての表現が何も出来ない。更に、相手が何を言ってるかすらも分からない時なんて辛さしかなかった。帰って勉強か語学留学したい欲が募り続けた。ただ、雄勝硯で実際に墨をすってもらってる間と、その墨で書をしてる間だけは、感覚が言語を超え、表情でたくさんのことを分かり合えた。

Object of Use
Object of Use
外観。熱気で結露
外観。熱気で結露
学生さんが多かった
学生さんが多かった
商品の陳列が可愛すぎて写真ばっかり撮っていた
商品の陳列が可愛すぎて写真ばっかり撮っていた

夜はオクスフォードで打ち上げをし、帰りのバスは寝て起きたらホテルだった。

9日目はロンドンの”TOKYO BIKE”さん。昼に搬入し1時間空きができたので、ヨーロッパツアーで初の、観光!テートモダンに行った。観光っていっても、日々の移動やコンビニに水買いに行くことすらも観光だったけど、ちゃんと有名な場所に行くのは初めてだったし、全く違うワクワク感があった。(ちなみにパリではペットボトルの水1本250円くらい、ストックホルムでは400円超え、ロンドンでは350円程度。ヨーロッパの物価高すぎた…。)到着して、まず規模に驚いた。美術館1部屋ごとのサイズ感が日本と違うし、それに伴い置いてある作品の規模も大きい。少ない時間で猛烈なパンチを食らいつつ会場へ戻り、ショックをそのまま書道に還元した。ツアー初日から、その日の展示の最後にいつも1枚大きな作品をパフォーマンスがてら書いており、それらを並べると、この日の作品が一番パワフルだと思う。言葉も、それまで「花」「書」「酒」などだったのに対し、この日は「解放」と書いた。

TOKYO BIKE
TOKYO BIKE
ショウウィンドウで書きました
ショウウィンドウで書きました
日本酒を提供してくださったナツキさん・ケータリングはアツコさん
日本酒を提供してくださったナツキさん・ケータリングはアツコさん
TOKYO BIKE
TOKYO BIKE
外観
外観
みなさまの名前
みなさまの名前

10日目。ロンドン最終日であり、ヨーロッパの展示最終日。なんとも言えない気持ちで朝を迎えた。朝起きて、時間があったから岡島さんにサーチギャラリーに連れて行ってもらった。初めて乗るロンドンの地下鉄。すべてがオシャレに映る私の目。サーチギャラリーは、ドツボだった。シンプルで重厚で最先端で、空間のパリッとした感じ。間違いなく、今まで行った美術館で一番好きな美術館。好きすぎてハシャギすぎた。サーチギャラリーの前に小学校があり、グランドでは体育の授業が行われていた。こんなに刺激的な美術館が目の前にある幼少期、どんな大人になるんだろう…。

夜の展示は”Daiwa Foundation”さんにて。日本の会社の持つ建物での招待制パーティだった。とても上品で優雅な日本ツウの方々に囲まれ少々難しい質問が飛び交った。言語はほぼツアーメンバーに頼って確実に過ごした。

Daiwa Foundation
Daiwa Foundation
和束茶の部屋
和束茶の部屋
背中で物語る「必死」
背中で物語る「必死」
岡島さんとマットさん
岡島さんとマットさん

夜は初めて、ツアーメンバーの6人だけで食事。ベトナム料理をいただいた。プチ打ち上げ的なノリと安心感と独特な絆。え?って空気に絶対なるから必死に堪えたけどちょっと泣きそうだった。みなさん英語が堪能で、優しくて、それぞれがそれぞれのユーモアがあって、ハイセンスすぎる、そんな人生の先輩5人と毎日を過ごした。体験することを通してこんなにも勉強になった期間は初めて。8回のパーティ=8回の展示の搬入搬出+書道の準備片付け+お茶の調合・準備片付け。みなさんはパリで1日早くから展示をされてるから、9回だ。この2週間で、脳みその今まで使った事ない部分がとても発達した。そして、もっと海外に行きたいと思った!2015年の目標に英語が加わった。


11日目。ロンドンからパリに向かう日。朝7時、私は1人でホテルを出た。薄暗い中いつものカフェでクロワッサンを買い、タクシーを捕まえ、ピカデリーサーカスに向かった。前日の昼間、レストランの壁に文字を書く仕事が入ったとの連絡が来ていた。どうやらインスタグラムにアップされた私の書いてる写真を見た人が問い合わせてくださったよう。お店は”SHACKFUYU”という翌週にオープンする空間。日本の冬をイメージした料理を提供するらしい。3時間後の10時にはホテルに戻りキングスクロス駅に向かうため、2時間で仕上げなければならない。オープン前の店内、工事やバイトの研修で慌ただしい中、好きな音楽を聴きつつノリノリで書いた。オーナー含め、その空間にいる約30人、誰一人として日本語が通じない。「女は度胸」という母の教えを胸に、個人的に過去最高な作品を残すことができた。

今までで一番好きな自分の作品
今までで一番好きな自分の作品
手前
手前
奥

自分で、とても良い作品だなと思う。ヨーロッパでのパーティを全て終えた安心感と達成感、そして、書道が好きな気持ちがとっても高ぶっていたし、期間中に付いた自信がこの文字に漲っている。最後にこれが書けて本当に良かった。


無事ホテルでメンバーと合流し、キングスクロスからユーロスターでパリに向かった。電車で国境を越えられるヨーロッパ…ユーロスターに乗ってから、あ、そうゆうことか飛行機に今回は乗らないんだと理解した。

車窓から見える、永遠と続くグラフィティ
車窓から見える、永遠と続くグラフィティ
車窓から見える、永遠と続くグラフィティ
車窓から見える、永遠と続くグラフィティ

パリに着き、優雅にカフェランチ。みんなは打ち合わせでパリにもう1泊予定だったけど、私はその日の深夜に東京へ。有難う&東京でも宜しくの挨拶をし、ひとり空港行きのバス停へ1時間歩いた。この徒歩1時間が旅の余韻だった。初日の朝6時に着いたパリ。そこからの3都市、そして最後のパリ。ツアーを一緒に過ごした重たいスーツケースを引っ張りつつ、映画のような街並みを進んだ。1時間で昼から夜に早変わりしたパリ上空のグラデーションがとてつもなく綺麗だった。バス停はオペラ座の近く。オペラ座周辺で事件が起きていたらしく、警察やパトカーで賑わっていた。全ての仕事を終え、ヘラヘラした私の思考回路はもう、映画の感覚でしか物事を見れなくなっていた。

みんなでアフタヌーンティー
みんなでアフタヌーンティー
オペラ座
オペラ座
日が沈む瞬間のパリ市街
日が沈む瞬間のパリ市街
あれがオペラ座
あれがオペラ座

バス停に着き、チケットを買い、乗車。同じ飛行機に乗るんだろうなって感じの日本人がたくさんいた。現実に引き戻される感じがとても嫌だった。空港に着くと朝の通勤ラッシュを思わせる激混み具合で、手荷物を預けるのに1時間半も並んだ。飛行機も遅れ、日付が変わった頃に出発。13時間空の上。起きて見えた東京、旅の終わりを実感。

東京上空
東京上空

飛行機に乗った時、安心する唯一の瞬間といえば、車輪が地面にドスっと着いた時。だけどこの時だけは、絶望というか、あーーーーー現実か。な感覚になった。ヨーロッパで食べたご飯は全てジップロックに詰めて山口県の家族に食べさせたいくらい美味しかったし、ワインも最高だった。ご飯が口に合うって、本当に恵まれてる。箸で食べたらもっと美味しそう、なんて思ったことは秘密。


ツアー中出会った、”Library of Arts”の方々、アローちゃん、アルゼンチンの方々、ストックホルムで合流したポートランドのスペンサー・アーサー・ソルベちゃん、山家さん、”WE LIVE HERE”のエバさん、トーマスさん、東アジア美術館の方々、kiki夫婦、九谷焼の吉田夫婦、田村さん、オクスフォードのティムさん、イクさん、”Object of Use”夫婦、”TOKYO BIKE”方々、モモさん、なつきさん、あつこさん、亜矢さん、”Daiwa Foundation”の方々、私たちの展示にお越しいただいた方々、情報を追って下さった方々、優しい英語で話してくれた皆様、ツアーメンバーの岡島さん、ホリさん、マットさん、佐藤さん、そして、黒崎さん。有難うございました。